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2015年1月29日木曜日

Radio Angels



 第二次世界大戦の終戦直後、アメリカの片田舎、
少年が聞いていたラジオ放送に突然割り込んできた、声。
その声はその時から、少年と対話をするようになる、

 その声を少年は゛天使゛と呼んだ。
でも、暫く対話を重ねると、どうやら一人じゃ無いらしかった……
それは、或る片田舎から始まった。


 またたく間に30年程の後、
十歳を迎えるエディ少年は、我が家の納屋でとても興味を引くものを発見した。

 子供には一抱えもある箱形の物体。

 ホントに納屋の奥の奥に、長年形を潜めていたようですっかりホコリにまみれた姿を晒していた。
 それは、片田舎で平凡に暮らす少年の好奇心を大いに刺激するのには十分で、一見黒塗のジュークボックス風だがもっとメカニカルで、まるでジュール・ベルヌのSF小説に登場する未知のデバイスを想像させた。
彼はこの箱を何とか取り出そうとあれこれ努力したけれども、非力な少年には何ともならず、やがて一抱えもあるとても重い物体の扱いにすっかり困惑した。
 その後も諦めきれず、何度も頭を傾けたり腕組みをしたりして小一時間、思案した結果とうとう一つアイデアが思い浮かんだ、それは細やかだが彼にはグッドアイデアに思えた。
 エディは決心する時は、何故か目玉をくるりと一回転してからコクッと頷くクセがあって、この時も彼はそれをして行動に出た。
 彼には大人の親友がいる、つまりエディのアイデアとは、その屈強な大男に頼み込んで重い箱を納屋から運び出して貰う事だった。

 因みにその親友とは名前をサイモンと言うネイティブアメリカンで、物心ついて以来父が不在のエディには、頼りがいがあって大らかな彼は兄や父の様な存在であり、子供の気持ちも理解してくれるとっても大切な存在だった。
 エディは元々彼等の歴史や習慣・考え方に関心があって、サイモンとは写真で見て憧れ訪れた大渓谷で出会ったし、何度か通った後にそこがネイティブアメリカンの間で"聖地"と呼ばれていると教えてくれたのも彼だった。
 それ以来、好奇心旺盛で正義感の強いなエディと、慎重で情に篤いサイモンは意外とウマが合ったのか、年齢差を乗り越えて親友となった。

 さて、その後その箱がサイモンによって何とか納屋の外に出された頃には、その日の昼過ぎになっていた。
 サイモンは運び出してからやっとこさ、圧し殺していた頭の中の疑問を吐き出した、
「何だい?コレは」
「まだ判んないんだ」
エディの能天気な返事に鼻息を吐いたものの、気の良いサイモンは彼の好奇心に付き合うことにした。
「かなり年代物だな、俺の年齢より古そうだ」
 出してみてやっと全体像が見れるようになったものの、エディには理解出来なかったが怪訝そうな顔でサイモン続ける、
「古そうだ、電源入れたら発熱したり、爆発するんじゃ」
「サイモン怖いのーー大丈夫だよ」
「俺はエディが怪我でもしないかと心配なんだ」
「ありがとう、でもこれ何だろう」
例えて言えばテレビジョンの様な、ブラウン管やメーター、レバーやボタンが幾つか付いている。
「ラジオかな」
「こんな変ちくりんなラジオ見たことがないけど」
「何だってイイや、とにかく気に入ったんだ」
 見るからに小難しそうな黒い箱がエディの好奇心と感性をくすぐるのだ、何の装置かは後でゆっくり考えればいいと彼は大事な事を後回しにした。
「僕のコレクションにしよう」
と、ごり押しして気の進まなそうなサイモンに、
「それよりこのままじゃママに見つかって捨てられちゃうよ」
エディは、母が帰る前に一刻も早く隠そうと思ってサイモンに何度も拝み倒した。
「うーん」
と散々葛藤していたもののエディにはどうも甘い彼は結局折れて、二人はエディの部屋まで運ぶため家の中へ入っていった。




 その時ポッカリ小さな紫色の雲が只一つ、青空に浮かんでいた。


 彼らが住む地域は、雨雲が山を超えられず雨も滅多に降らない乾燥地帯、カルフォルニア州でも山脈を超えた東の果ての街からも更に郊外、隣の家まで近くても車で数十分もかかる荒野の中に、エディの親子が住む家はポツンと建っていた。
 一昔前は夜中にコヨーテの咆哮が聞こえるような人知未踏の地であり、かつてネイティブアメリカンの聖地だった山や渓谷が点在する大自然の中で、エディの家からも聖なる山が遠くに望める様な所であった。
 そんなエディの家族が僻地に住む事になったのは、人を避けねばならない仕事に就いていた父の事情だったが、その父はわが子の成長を知る事も無く消息を絶って久しいが、そのまま同じ不便な場所で父の帰りを待ちながら、母親と二人暮しをしていた。
 エディは年少の小学生だが、最寄りの学校でも160マイルもあって無線通信教育を利用するような学習環境なので同世代の友達も居なかったが、親友サイモンも居て不便ながらもそんな生活を結構楽しんでいた。

 楽しみは自分で探して、創り出す。

それが母、リサ・バーンズの教育方針だったし息子もそのように育ってきた。
 リサは几帳面で、余計な物を部屋に持ち込むのを極端に嫌う一方エディは好奇心旺盛な子で、興味を持つと何でも持ち込むので、リサには部屋荒らしの常習犯として常に目を付けられていたから、折角片付けた納屋の物を無断で覗かない様に言いつけられていた。
でもそう言われると見たくなるのが人情で、とうとう我慢できなくなって、母が仕事に行った留守を狙ってコッソリ納屋に侵入、先のトレジャ・ハンティングと洒落こんだのだった。
 リサは車で片道4時間以上もかかる街へ通勤しているから直ぐには帰ってこないので、その日も彼女が帰宅した8時には例の箱は綺麗にホコリを拭き取られてエディの部屋のクロークの隅に収まっていて、余裕で見つかる事は無かった。
この箱は暫くは彼の好奇心を満足させることだろう。

 さて、暫くは母の目を盗んでは秘密を楽しむエディだが、やがて箱の機能に興味を持ち出した、針の止まったメーターは動いてこそクールだし、何よりもどんな動きをするのかも見てみたい、その為には延長ケーブルでソケットに繋ぐ必要があったので、早速彼はまたもやサイモンに頼み込んで延長ケーブルを借り、めでたく電源オンとなった。

 ピューン……

とっても電子的で澄んだ音と共にブラウン管にウェーブが走り、メーターが意味あり気に忙しく振れるのを見て、エディは歓喜の声をあげる。
「最高、クールだ」
 未だ何の装置か判らないなモノが生き物の如く動く様は、素朴なサイモンには馴染めなかったが、久し振りに生き生きとする親友の笑顔を見ると、リサには罪悪感を感じる一方何か微笑ましくもあった。
 暫く二人でこれが何者かを思案し合っていると、声が聞こえた気がして会話が止まった。
「声、聞こえなかった?」
「ああ」
 二人は沈黙して、スピーカーに耳をそ~っと近づけた。
暫くはゴニョゴニョと判り難かったが、次第にチューニングの精度が上がってきて、

ズズ……ズ……メイ……デイ、メイ…デ……

「緊急避難信号か」
「かな、良く判らないや」
どうも古いせいか、イマイチ不完全な動作にフラストレーションを覚えるエディ。
暫くは粘ってもう一度聞こえないか期待したものの、それ以上の音は無くブラックボックスは沈黙した。



つづく

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