Translate/ことばを選ぼう

2015年1月13日火曜日

念力少年 中華混沌編 - 歪められた歴史、その後



三国統一を目指す魏の国の皇帝についた曹操、その元に意外な来客があった、側近からその報告を受けて彼は、
「何と?ほぅー、面白い通せ!」
そう伝える、間もなく来客が謁見の間に通された、優美に立つ一人の女を見て曹操は目を細める、
「これはこれは、諸葛孔明殿、先の戦で西の辺境地で消息を断ったと聞いていたが?しかもスッカリ麗美なお姿に……ふふっはは、西で何かあったのか?」
姿が女性と見まごう程孔明は美しくなっていた、かつて叡知を欲しいままにした彼が何故にここまでの変容に至ったのか?、ただ彼いや゛彼女゛は面白い話をし出すのである。
「曹操殿?ご機嫌麗しゅう、この姿をを見て動じぬ処は流石の豪傑ぶり、久方ぶりですね。私は西方で訳ありこの様な姿で世を遊ぶ世捨て人となりました、それはさておき、今日は妙な噂を耳にしたのでこうして確かめに参った所存」
曹操は片眉をつり上げて、
「妙な噂?とな、してどのような。余も興味があるな」
「何せもう数年も前の事、西方の辺境地であった月氏国との戦でございまするな」
一瞬曹操の眉がピクリと動く、
「ふうん、知らない訳でもないな、詳しくもないが」
急に曹操の歯切れが悪くなる、孔明はその空気を見逃さない、
「くくっ……危なかったですぇ?もうちょっとで、そなたの目論みが狂う……」
「それ以上言うな!そこまで見切ったか孔明、その通り、あの戦いは周辺強国を取り込んで、入植と引き換えに我がその国の王になる密約の結果その石末だった……そなた今更、余を揺する気か?」
「まさか!既に世を捨てた身、今更そのような事ほほほ、ただの昔のよしみその危うくなった顛末知りとうないか?」
曹操の眉が両方持ち上がった、
「昔のよしみ?フム、まだそなたの真意が読めぬが、叶うなら聞かせてもらおうか?余の目論見を一時とはいえ、遅らせた理由をとやらを!」
その頃、都にみすぼらしい姿の小男が入城していた、普通城門のある都にはそう易々と入れるものではないが、その小男は不思議な妖術使いであった。
気配を消して荷車の食材の中に紛れ込み入城したのだ、その時始終馬車を曳く車夫を完全にコントロールし成功率を上げていた。
奥に進んで暫くして、人気の無い場所で小男は荷車から飛び降りる、そのまま繁華街へ向かい市場の人だかりへ身を隠す。
目標は宮廷にいる曹操であった。




再びその宮廷内。
孔明から訳を聞いた曹操の肩は震えていた、
「何様だ?そんなまやかしを使う輩は!」
今で言う完全主義者だった曹操に一子報いた人物、孔明に焚き付けられて久しぶりに闘争心に火が付いた彼は、即部下を当時の戦地へ゛ヤツ゛の情報収集に向かわせた。
小男は、暫く市場を歩き回る、この者は人並み外れた様々な能力を持ち合わせていた、市場でもそれを遺憾無く発揮し町人、役人等から都の情報を集め始めた。
「帝都と聞いていたが、割とちょろいな」
城門を越えた後、警備の余りの安易さに半分呆れながら、かなりの高官と思われる男を見つけ、近寄る。
男を見つめる……高官の男は怪訝そうに小男の目を見る、間もなく高官の男の目から正気が失せていく、虚ろな表情でそのまま小男の意のままに後を着いていく、やがて路地裏に来ると、小男が高官に話しかける、
「曹操は何処に居る?」
「あの宮廷の最も奥に本殿がある、その左手の離宮においでだ」
高官に意思はない、小男に操られるまま喋り、城の方向を指差した。
その途端である!何処からか現れた憲兵が高官を斬り付け、ややもなく高官の首は胴体から離れ転げ落ちた。
小男は寸前で見切って飛び退き、瞬時に身を隠していた。
憲兵は辺りを見回すが高官意外に人の姿を見留られず、
「もう一人居た筈だが?」
と、怪訝そうに首を傾げたが、部下に遺体処理を命じて警戒任務に戻っていた。
小男は、油断大敵と心得た、どうやら曹操の宮廷の方角を指す事は御法度のようだ、主の居場所を教えた者は、例え高官であっても問答無用という事らしい、まあ目的は達成した、小男は宮廷を目指し移動した。
暫くして宮廷の門前に着く、しかし流石にここは警備が堅い、強引に突破するのは造作もないが、門の中どれだけ相手せねばならぬか?検討もつかぬ、ここは夜を待って闇に紛れて侵入した方が楽と見た、丁度腹も空いてきた、ここは一旦退散を決め込むことにして、市場に戻る事にした。
やがて夜、宮廷内
朝方急遽遣わした密偵から報告が入った、休んでいた曹操の所にあわてて官吏がやって来るや、
「申し上げます、只今密偵より連絡がございました!」
飛び起きて、曹操は支度をして離宮へ移動する、
離宮の中庭を望む廊下には孔明が既におり、涼んでいた。
「孔明眠れぬのか?、今情報が入った」
相変わらず冷静に答える孔明、
「流石に早い、何百里もあるのに相変わらず見事ですね?」
曹操は鼻を鳴らして世辞にもならん、と一笑に伏して密偵に言う、
「報告せよ!」
膝ま付く密偵がかしこまって話す、
「申し上げます!当時の戦場は霧が濃く、相手を判別するのに難儀な戦いであったそうです、しかしながら凛音総督率いる数百の軍勢はまるで霧など無いような動きで、月氏、怒留句軍を翻弄したそうです。」
曹操の片眉が上がる、
「霧が見えてない……?で、肝心の男の情報は?」
「はっ!それが。そのような者をみたという話は一切ない、と」
その一言に曹操は激怒する、
「たわけ者!おのれ何の為にワザワザ現地へ行かせたと思っているか」
密偵は身を縮込まらせてさらに恐縮する
「本当に居ないのです、只の一人も……お命だけは!」
あきれ果てている曹操に孔明が口を挟む、
「私の聞いた情報は只の伝説なのか?事実は土地勘に聡い凛音提督の手腕という事かも知れぬぞえ?」
眉を上下させ、曹操はその言葉に納得しかねていた、
「余は彼を知っておる、優秀ではあるがそんな妖術まがいの戦術を使うようなヤツではない!絶対何か裏がある。それに現地で見つかった死体は男だけで、女子供死体が無かったそうだ、ということは男だけなら精々二百程度、そんな数で数万の騎馬兵相手に、どうやれば一週間も持ちこたえられる?余でも出来ぬわ」
「曹操まあいきりなさるな、妖術なら私とて心得ておる。西には妖しい業が存在するのだからね」
曹操の眉が両方持ち上がった、
「ほう!妖しい業、存在すると」
「昔のよしみ、良ければお見せしようぞ」
「どのような事が可能かな?」
「例えば、見えない人の気配を汲み取る業」
そう言って指を立て目の高さで止めてゆっくり自分の目に近づける、指先が眉間に重なった時、奇声を上げる孔明。
暫くの沈黙、そして曹操に向かって何も無かったような顔で語る、
「どうやら、侵入者が一匹既に宮廷に居るぞえ?気をつけなされ」
身構える曹操、しかい彼には気配が判らないしかし、目で官吏に兵の手配を支持、その手配は静かに行われる。
「何処に居るか解るか?」
体に不相応な小さな声で尋ねる曹操、
無言で孔明は屏風のある方を静かに指差す、それを見てあうんの呼吸で曹操が屏風を真っ二つに斬る!
瞬時に屏風の上半分が吹き飛ぶ、屏風の後ろから寸前に何かが跳び跳ねた!
曹操はその素早さにも冷静に判断、壁を後ろに身構える。
ほんの数秒の事である、また辺りが静かになる、やがて殺気に気づいた衛兵が駆け込んで来て、曹操の回りを取り囲む。
護衛は完璧な筈だった、しかし直後その衛兵が次々と人形の様に無造作に倒れていく、最後に隠れていた曹操が露になる、流石の曹操もこれには肝を潰した、
「何が起こった?」
うろたえる曹操に孔明だけは冷静に言う、
「お前の目線と水平に斬り付けよ!」
その言葉に反射的に反応し、刀を水平に振りきる曹操!
手応えがあった、
「ぎゃっつ!」
呻き声が聞こえ、ドサッと何かが床に転げ落ちる、また暫し静寂が戻る。
曹操達の間に、脚を抑えて苦しみもがくみすぼらしい小男が倒れていた。
「こいつ、何者ぞ?姿が全く見えなかった」
眉間に皺を寄せ驚嘆の曹操、孔明が応える、
「こやつは妖術使いであろう、それも相当手練れぞよ。曹操流石だ!腕は落ちておらぬな?フフフフッ」
「お前の一言で命拾いしたな。こやつよくも、留目をさす!」
小男が叫ぶ!
「お待ちください!曹操様」
曹操は小男の一寸手前で刀を止める、
「何の命乞いか?この期に及んで」
僅かのいとまを与えられた事を悟って、小男は弁解する、
「確かに拙者、妖術を生業とする者、ただお命を頂くなど滅相もない!実は例の戦での奇跡を起こした男についてお伝えしたく……」
思わぬ展開に曹操の眉がピクリと動く、
「お前、知っておるのか?嘘を付くと只では済まさんぞ」
「その様な事は御座いません……」
そう言いかけた次の瞬間に、小男は固まって石のようになったかと思うと、その体は砂のように崩れだし窓から吹き込む風に流され床に散らばり、やがて消えた。
目前の奇っ怪な出来事に目を丸くする曹操、
「何が起こった?孔明」
孔明は笑みを浮かべて罵るように、
「これが妖術使いの末路と心得る事ぞよ」
しかし慌てた様子で言い返す、
「おい!こいつは余の疑問の答えを知っていたのだぞ!ここで死なれたら……」
相変わらず、冷やかな目で床に転げ落ちる衛兵の上に手をかざしながら、
「落ち着くのじゃ、そやつはお主の心を詠んで利用しただけの事、命乞いで油断したところを狙われる所だったのじゃ」
そう言って手をかざし終わると、暫くして衛兵が息を吹き返し何事か?という顔で次々と起き上がった、それに目を奪われる曹操、
「孔明!これもそなたの妖術か……?」
孔明、余裕の表情で髪をかき揚げる、
「ただでこの様な姿に成り果てた訳ではなくてよ、私を敵に回わさぬが賢明」
脂汗を流しながら、眉間に皺を寄せて、
「言うまでもない!そなた程余の側近に相応しい者はおらぬ、異存はないな?」
孔明はしたり、とにやけて、言った、
「造作もない……ククククッ共に天下を変えようぞ」
妖しく笑う孔明。
このまま歴史が歪んでいくのか?
しかし、この直後ある者の活躍によって孔明の策略は失敗に終わる。
今の在るように歴史は流れて、諸葛孔明はこの頃より何年も前に亡くなっていた。
ここに出てきた女形の孔明は、人知れず歴史の中から姿を消して、記録に残る事は無かった、
どこへ消えたのか?
舞台は少し後の東方へ舞台を移す事になるがこの話はここまで。

0 件のコメント:

コメントを投稿