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2015年1月10日土曜日

念力少年 創始 続一編目

 (ステージ :中国)


更に年月は流れて、二人の噂も聞かなくなった頃のこと。
月氏の東方の隣国、国境の最前線の地に緊張が走っていた、慌てて斥行を務める兵士が前線基地に飛び込んでくる。
「報告します!月氏の密偵の話では、ここ数日より不穏な動きが起きていると……」
基地の責任者、凛音(リオン)が唸る、
「具体的に話せ!どう不穏なのだ?」
「はっつ!密偵の情報では即興軍が今日夜半にも北方の奴留句族と合流して二方向から我が軍を殲滅にかかるとのことです!」
凛音に戦慄が走る、それはほぼ勝てない事を意味するからだ、暫く考えて指示する、
「それが判っていながら逃げない訳に行かないが、応援は頼めないのか?」
「恐らく間に合って明け方になるかと!」
「我らはこの地に居すぎた、家族が定住するには至って今更逃げられるか?
しかし、このまま犬死には避けたい」
頭を揚げて膝ま付き、運命の指示を待つ部下を前に英断を下す凛音、
「よし、家族を今すぐ東方側近の壕村に避難させろ!女子供、そして知恵者のご老体を最優先、一部を除き男は全て一ヶ所に固まり、敵の攻撃に備える!すぐ動け」
その言葉に悲壮感の漂う団結が生まれる、すぐに彼らは行動に出る。
その地は今で言う雲南省北部の地、少数民俗が最前線として土地を護っていたところだった、ここでも今に伝わることも無いが数えきれない人の物語があった。
しかしここでは取り上げる機会を持てない為語らない、彼らはこの後民俗の継投に的を絞って東方に活路を求め移動する。
残った男達は、それらに未来を託して時間稼ぎの盾となり、圧倒的な力に押し潰されていく、それは当時の歴史の流れとして至極当然の結果だった。
この民俗の流れで東アジア情勢は、南は逃れた極東原住民系と東南アジア系との融合し、一方北は三国統一の代償に北西系民俗に入植を受けた、現在の中国民俗の原型へと淘汰されていくのである。
やがて、東方に逃れた少数民俗は、その独自の文化をその地域に色濃く残しながら、南国現在の沖縄、または東シナ海を渡海して、北方より文化が伝来する遥か以前より、日本へ影響を与えていく事になる。
言わば、文化的には日本のルーツと言えるものだ、その少数民俗の一大事にある少年が絡んでいた。





話を凛音の居た最前線に戻す。
民俗の重要な決断に迫られた彼らが、一ヶ所に固まり侵攻を待ち構えている時、深い霧のような白い空気が立ち込めてきた。
凛音は、その霧に少し希望を持っていた、ゲリラ戦術を使えるからだ。
成功すれば奇跡が生まれるかもしれない、しかし気掛かりな事が一つある、敵と味方区別がつかないのだ、下手をすれば見方同士相討ちになり兼ねない。
その時である、危険で誰も近寄らない筈のこの地に、見知らぬものがたった独りで近寄ってくる、しかも彼は濃霧の中で眼が見えるかの様に罠を避けてどんどん近付いてくる、その歩みは速くはないが、余りの潔さに誰もが度肝を抜かれ、手を出せないでいた、何と何百といる兵の間をわずか数時間で、凛音の目の前まで辿り着いてしまった。
「何と言う事だ、彼一人に誰一人逆らえなかった、しかも無血で?」
マントを被った目の前の男、凛音は震えが走った。
この男が敵であれば、既に我が軍は意味を為さない、これで終わりなのか?
それとも見方であれば、彼を先導に敵と対等に戦える!彼は何者だ……?
百戦錬磨を誇る凛音をしても計りかねる事態に、本陣内は緊張し相手の動きを待つ。
ジッとしていた背の低い男はマントを翻し、その姿を表す。
一瞬怯む本陣内、
凛音は、目の前に少年を見留た。
見た目は、只の少年が立っている、みすぼらしい上着にズボンのような履き物、
「こんなこどもが……?」
凛音は肩透かしを喰らったような違和感と驚きを感じたしかし、彼が顔を上げた瞬間、その考えが甘いとすぐ悟る。
彼の眼光は恐ろしい程鋭かった、歴戦の兵であればそれは解る、しかも彼の左右の瞳は色が異なっていた!左目は薄い褐色、右目は清んだ蒼なのだ。
その鋭さと純粋さを併せ持った瞳に、凛音は心打たれ敵ではないと直感した、理由は無い、不思議とそう信じれたのだ。
何もかもを見通しているようなその瞳に吸い込まれそうだった、辛うじて自我を取り戻して凛音は少年に尋ねる、
「そなたは、まだ幼い身で何好んでこんな前線に独りでやってきたのだ?」
少年はゆっくり動じること無く答える、
「相手が強すぎる、均衡を保つためです」
「均衡……?そなた独りで均衡が取れる、と?」
「この霧の中ならお役にたてると……」
「やはり、そなたは霧中でも眼が見えるのか?」
「この霧は幻影です、私には見えていません。ですから周りが見えて当然なのです」
「霧は出ていない?」
そういって改めて回りを見渡す、部下にも確認させたがどう見ても霧が見える、
「言っている事が解らぬ、それにそなた一人がそうでも先導には限界があるし、どういう事か理解できん」
「解りました、では貴方達を私と同じようにしてあげましょう!」
何が何だか解らなかったが、暫くするとスーッと濃い霧が消える、先が何十里と見通しが良くなった。
周りでどよめきが起こる!凛音も言葉を失った、
「この通り、本来霧など出ていないのです、しかし敵側にはこの霧は見えています」
凛音は背筋が凍る思いだった、この少年……いや見た目はそうだが、中身はとてつもない存在だと思った、少なくとも年下には思えないのだ。
凛音は言葉を替えた、
「何処のどなたかかは存じませぬが、どうか我々をお導きくださいます様にお願い申し上げます!」
かしこまった凜音は改めて、
「それではまず、ご芳名を承りたい」
「名はありません、付けて頂ければ幸いですが」
「おお、それでは今の業を受けて、名を遠明(エンメイ)では如何でしょう?」
その言葉に一つ頷いてから、
「では私は遠明です、貴殿方がそう強く願うなら、その通りにして見せましょう」
凛音はその返事に土下座をして深々と頭を下げた、それを見て回りの兵も従った、そこについに最強の結束が生まれる!
強大な敵は霧のため歩みを遅らせていたが、もうすぐそこまで来ていた。
時は満ちた、いざ反撃である!


つづく

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