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2014年12月26日金曜日

念力少年ー黎明期編

 (ステージ :中国)




遥か西の国より始まる奇跡……

 それは昔、まだ今で言う中国が三つの国に別れて争う事になる幾ばくか前、さらに西方に月氏という共和国あり、
 その国々は元々゛春明(シュメイ) ゛なる、謎の高度な業を持った強大国家が中心を失い衰退した結果できた分裂国家でありました。
 只、残念な事にはそれらの国は、現在の歴史記録には殆ど現存せす、諸説有るようですが未だ発掘や研究が行き届かずに、未開拓となっておりまして、
今は人が足を踏み入れるには困難を極める程に荒れ果てた地域となっておりますが、かつて栄華を極め様々なテクノロジーが花開いたユートピアがそこにあったので御座いました。
 そんな古(イニシエ)のお話から始まります。



 ― 現代では地球物理学の分野で話題になっているのが、地球の地殻は何億年という長い期間を経て移動するのではなく、極気まぐれにマントルの流動で数千年の規模で変動を起こすという説である。
また、地球の内核は今まで考えられてきた以上に複雑な動きをしており、その動きのお陰で地軸は少しづつ移動しているという、数千年前には今あった場所が極地だったり、砂漠だったりすることになり、現在の地域気候に基づく歴史考証は成立しない所まできている。
 現存する史書の及ぶのは精々三千年程エジプトの歴史位で、それ以前は゛推測゛の域を出ないのが現実である。
 一部伝説の形で残されている文献もあるが、それは成立年代も根拠不明で歴史とは認定し難しく、少し前までは異端扱いされてきた文献資料もここに来て俄然真剣に取り上げられるようになってきている。
 元々、主導権を握っていた西洋人の力が弱まり、考古学もグローバル化したことが大きいと思われる、ダーウィンの進化論が歴史の構築に幅を効かせていた時代は終わるのかも知れない。
 地球の知的生物の進化衰退は4、5千年周期で興ってきたと考えるのが自然である、それを認めたくない気持ちは判らなくもないが、地球は何億もの間に現れては消えた文明に大地を間貸ししていただけ、というのが妥当な歴史ではないかと思うのだ―



 さて、話を戻さなければならない。
 その春明のなれの果て、月氏共和国の西方、汗南国(カンナン)にその最たる末裔の技術者が残り、遠い将来に子孫が再び繁栄することを願ってタイムカプセルならぬ箱をあるところに埋めた。
そして、その番人として永遠の命を授かった者をその上に置いていった、彼らはその後役目を全うしたとして、どこかへ姿を消した。
 その後彼らとその技術は何処へ行ったのか?誰も知ることは出来なかった。

 やがて年月が経ち、その事実は伝説となり月氏国にあるとされ蓬莱山が伝説の対象と崇められるようになる。
 月氏国の東方には三つの国が存在し、その一国が統一を成し遂げようと歴史は動こうとしていた頃である。
 この三国の歴史は史書にも残る、有名な話なので今更語らないが、その渦中の人々特に軍人にとって遥か西方の蓬莱山にあるという伝説の箱は、絶対的な力を獲る為不可欠な宝として噂されていた。
 その箱を我が物にせんが為、何度も月氏攻略が試みられたが、そこは余りにも広大で奥が深く、当時の国内戦況は三国お互いの攻防で精一杯で、対外の月氏までも戦力を削く余裕がなく毎回苦汁を舐める事になる。
 さらに北方のモンゴル、ツングース系騎馬民俗、三国統一末期には東方の狩猟民俗からの圧力も加わり、東アジアの国勢は混沌を極める事になる。
そんな時期だからこそ、伝説は必要であり結果、軍人の士気高揚に一役買ったのである。
 歴史的には、月氏が強力だったため、その宝は国外に出ることは無く、その山の名前とその有難い伝説だけがその後東方の国々に伝わり今の文献に残ることになる。
また、別の伝説では蓬莱山とは、さらに西方の仏教発祥を形容した物とされるが、先の伝説と同様、尾ひれに過ぎない。

 その伝説の基となった月氏の南西、汗南国。
 かつて栄華を極めたその国も気候変動をまともに受け、砂漠化が急速に進んで、かつての町を砂が覆い隠そうとしていた。
 吹き荒ぶ砂嵐、数メートル先は視界が効かない程の中、マントの男がある村に辿り着く、一軒の家の前まで来て力尽き倒れた。
 間もなく畑の様子を見て帰ってきた娘が、自宅の前に倒れている男を見つける、その時キラリと光る首飾りを見て、娘は何かを訴えかけられた気がして、男を家に率いれる気になった。

 パチパチと薪が燃え弾ける音で、男が目を覚ます。
 視線の先に女の後ろ姿があった、物音で娘は気付いて振り向く、初々しい蒼く輝く瞳、そして色白だがエスニックな顔立ちを見て、男は美しい娘だと思った。
「助けてくれたのか?」
娘ははにかんだ表情で、男の下げている光るものを指差す。
「ああ、これが眼に衝いたか?私が物心ついた頃から身に付けている物だ」
娘は近づいてきてしゃがみ、男のその光るものに関心を示す、娘にそれを差し出し、
「珍しいか?そうだろうな、こんな物を作れる者はもう居ないだろうからな」
娘は光るものを手に取ってみたいと言った、男の話す言葉とはかなり訛っている、
「酷い訛りだな、かなり月日がたったのか……そうか、良かったら好きなだけ見るがいい、この先一生この様な宝を見ることは無いだろうからな」
そういって男は、娘に透明な石のついた首飾りを手渡してやった。
 娘の蒼い瞳が途端に輝く。
その時彼女は、前世の業に直に触れた唯一の人間となったのである。
それは、複雑な面取りをした透き通るような水晶に、繊細に金属加工した枠を嵌め込
んだパーツに、やはり腐食しない金属を隙間無く組み合わせた鎖で出来ていた、しかも見た目に違い、異常に軽いのである。
現代の技術でも加工が困難であろう忘れ去られた業の結晶である、その光るものの軽さや、美しさを、娘は味わっていた。
 それを見て男は、娘に呼び掛ける、
「私の望みを叶えてくれるのなら、お前にそれを上げようか?」
一瞬その言葉が信じられないと言った顔をしたが、すぐ飛び上がって喜んだ、男は畳み掛ける、
「その代わり、お前は私の妻となって我が子を産んでもらおう!」
娘に異存は無かった、自分の全てを捧げても、その奇跡とも言える光るものは価値があると思えた、契約は成立しその日娘は初夜を迎え、二人は体を重ね未来を繋いだ……

それが全ての始まりである。

続く