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2015年2月12日木曜日

Radio Angels 第2話




 それからと言うものエディは、リサが仕事に出た後通信講座を済ませて、昼過ぎになると自部屋のドアを締め切ってから、箱の声に耳を傾けるのが日課になっていた。
その後も声らしきものは聞こえて来ないまま数週間が経とうとしていた。
 ある日、家族で久し振りの買い出しへ出かけた後、誰も居ない筈のエディの部屋中で、助けを求める声らしき音が虚しく鳴っていた。

 その事を知る由もなかったエディは、正午前には最寄りの大きな街に辿り着いていた、大きな街と言っても人口数万の田舎街だったが、彼には十分に都会だ。
 前までは買い出しに来た時には母と一緒にスーパーへ付き合っていたが、最近は或るもので街が賑やかになっていて例外なく彼もそっちに興味を持つようになっていた。

"ようこそ、イーバの郷へ!"

 最寄の空軍基地撤退が決まって多くの人が職を失う中での突然に湧いた新たな"特需"に街はアメリカンドリームを狙って再び活気づいた。
 今では街中に派手な看板が目立ち、あるマニアからは"聖地"とまで言われるようになっていた。
 その話題、それは

"UFO"現象

 事の発端は、1945年頃から米の或る州で起こった未確認飛行物体の目撃や墜落事件からである、暫くその話題は形を潜めたものの数年前、1975年頃からある事件関係者の発言かた再びメディアで話題に火が付き、当時よりも発達した全米の情報網によって爆発的なトピックとなっていた時代。
 更に最近では、街の遥か西方に存在すると言われる通称"エリアX"なる米軍基地上空に毎夜現れるUFOの噂が囁かれ出すと、それがこの地のUFOネタと一緒になって再び全米に軍絡みのUFOスキャンダル騒動に。
それに便乗してN州の片田舎のこの街が久し振りに"UFO発祥の地"として観光地化したのである。

 そんなトレンドを、好奇心旺盛なエディが見逃す筈も無くここ半年は母との付き合いもそこに、専ら最近行きつけになった、
"エイリアン・バー"
へ街に着くなりそこ常連でやってくるUFOマニア達の"情報交換"の空気を楽しみにする様になっていた。




 この日も例に漏れず、エイリアン・バーへ入って一通り店内を見回してから"いつもの席"のカウンターへひょこっと飛び乗った。
そしてカウンターに肘をついてホットチョコレートをオーダーするのが彼のお決まりだ。
 この店、バーと言っても昼間はイートインとして女子供も気軽に出入り出来るので、お子ちゃまエディでも何の問題も無い。
「よう、エディ」
飲み物を一口堪能した直後、背後から聞き覚えのあるフレンドリーな声が聞こえて振り返る。
「やあ、カーヴィン元気」
そこに二十歳前の栗毛のメガネ青年がわざとらしい怪しげな笑みを浮かべて、人差し指を上へ突き上げていた。
 それはUFOを呼び出す時にする仕草だ、二人はこれを挨拶代わりにしていて、エディも挨拶代わりに同じ仕草をした。
カーヴィンは彼を人の少ない末席に呼び出し、潜めた声で密談を始める。
これは彼なりのスタイルで、本当のシークレットかははなはだ怪しかったが、エディは”秘密の匂い”が堪らなく気に入っていた。
「いや~昨晩また見ちまったぜ」
それを聞いてエディは目を輝かせた。
 カーヴィンは軍管轄下にあって、以前から何かと胡散臭い噂の絶えない"エリアX"の敷地の中に入る方法を知っていて、昨晩もそれを実行したらしい。
 彼は得意げに鼻を鳴らして、基地上空で宇宙人グレイが操縦するUFOが、幾何学的なあり得ない飛び方で夜空を舞うのを見たというのだ。
「スゴイ」
 エディは羨望の眼差しでカーヴィンを見ていた。
それに悦に入った彼は更に取っておきのネタを話してくれた。
 それはUFOの由縁に関する話で、一部の"UFO研究家"しか知らない超極秘ネタだと言う。
エディは胸の高鳴りを抑えるので必死だった。
 カーヴィンによれば、UFOとは第二次世界大戦末期にナチス・ドイツが開発した兵器が原型だと言う。
その開発は、ある天才的な技術者の誕生から始まった。

 第一次世界対戦直前、アメリカ東部の片田舎で極平凡な
プロテスタントの家庭に男子の赤子が産まれた。
多感な時期を世界大戦を見て過ごし、聡明な少年に成長した彼は、
空を自由に飛び回る独創的な夢を持っていた。
そんな彼が思い描いたのは、この戦争で登場した航空機とは
発想の異なった夢の空飛ぶ乗り物だった。

当時主流だった複葉・単葉機の様な翼やレシプロエンジンを持たず、
しかも重力の制限を受けずに自由に浮いて、
彗星より早く空間を移動出来る未来の乗り物。
少年の近い将来現れるであろう未来の世界との架け橋となる飛行物体を
幼い頃からイマジネーションし、やがて成人した彼は
その実現に苦学し、独学で航空力学をモノにした上に、
さらに独自に発展させたUFOの原型開発に成功する。
しかしアメリカでは見向きもされ無かったその技術だったが、
当時ドイツで台頭し始めたナチス党の党首の目に留まり、
彼は、単身ドイツに渡ってその独創的で画期的なテクノロジーは花開き、
革新的な新兵器としてその後も開発は引き継がれ、
ドイツが敗戦するまで彼を中心に秘密裏にそれは続いた。
その飛行物体は、終戦間際に少数だが量産化され、第二次大戦末期には
北欧などの戦場に姿を現し、その予測不能で不気味な行動から
幽霊戦闘機"フーファイター"と恐れられ、大いに連合軍を悩ませたと言う。

 そのテクノロジーがは戦犯の身柄開放と引換えに、アメリカの手によって里帰りをした後、今でも秘密裏に新兵器開発に活かされていると、カーヴィンは語った。
「でも、でもUFOは宇宙人が操ってるんでしょ」
「まあ慌てるなって、実はここからが超極秘なんだ」
 ワクワクの展開に、普通なら辟易するところをエディはさらに目を輝かせ、その反応に満足した彼は更に饒舌さを増して、崩壊したナチス・ドイツは実は今も姿を変えて存在すると意味深にエディに囁く。

 ナチスの残党は敗戦が濃厚と見るや、連合軍に負けたと見せかける為に一部のテクノロジーを明け渡すが、その重要な物は秘匿し若い士官らと共に別の場所へ逃れて暗躍していると言う。
 そして今日彼らは、自らを進化させエイリアンと化しUFOを操って、世界を監視していると言ってのけた。

 もう何が何だか判らず放心状態のエディを横目に、カーヴィンのドヤ顔は半端無かった。
「ちょっとエディには難しかったかな」
と前置きし、アメリカもそのホンモノに対抗すべくUFOタイプの兵器を"エリアX"で開発していると補足した。
「ここだけの軍のトップシークレットだぜ」
「ありがとう、こんなスゴイ話絶対誰にも言わない」
 エディは自分が特別になった思いで満足げだった、その高揚を落ち着かせるかのように、ホットチョコレートを一気に飲み干してから、夢見心地でゆっくり窓の外を見た。
 窓の外では、彼を見つけて微笑む母が手を振っているのが見えて漸く現実に戻ることができた。

 当時のUFO研究家の間ではそう言ったもっともらしい陰謀があちこちで囁かれてはいたものの、大半の者は話題にしても信じない様な話しだったが、それは全くの的外れでも無かった。


 同日、エリアX内空軍基地。
 その基地へ、軍事関連予算縮小化の調査の為に設備調整任務で、一人の担当官が転任する。
 その担当官ハワード・ランダン中佐がエリアX内の立ち入り禁止区域内にある通称、"開かずの間"の存在価値に疑問を抱くのにそれ程時間は要らなかった。
 着任前からエリア内の有効化を再検討して無駄な施設・備品をリスト化していたからだ。
「明らかに"ブラックボックス"は無駄だろう」
監視モニタに映る巨大な黒い物体を指差し言い切った。
 ハワード中佐は新大統領就任後、軍事予算縮小が叫ばれる様になってリストラの一貫で編成された査問委員会に編入される。
 つい数日前WS空軍基地で初任務を遂行した矢先で、3か月後の今日からいよいよ本命だった当基地のアンタッチャブルである”核心部分”にメスを入れようと張り切っていた。
 開かずの間は、今まで如何なる者も関与してはならない暗黙のアンタッチャブルゾーンとして扱われ、何人も今日まで関与を避けてきた。
にも関わらずその有用性は、広大な敷地に点在する他の施設と比較してもお世辞にも無いのは自明で、それでも見過ごされてきたアンノウンなエリアだった。

 何時からそうなったのか、正確に答えられるものは誰も居ないと言う、それに関わろうとする者は何処からか圧力が掛かって諦めざるを得なかったのだ。
 そんな事情からかそれが良からぬ怪しい噂となって全国に広まって、世間で言う胡散臭いイメージの代名詞として"エリアX"と呼ばれいた。
 そこに遂に大統領交代を期に、肝いりでメスを入れる事を許されたのだ。
その先陣を切るハワードにとって"開かずの間"の調査は、威信をかけた第一命題だった。


つづく。

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