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2015年3月10日火曜日

Radio Angels 第4話

 その頃から、開かずの間の新たな動きがあった。
エディが孤独なエンジェルと会話を始めて一月が経とうとしていた時期だった。
 エリアXの地下倉庫の奥にひっそり建造された開かずの間、今迄成りを潜めていたと言うのに、音がする様になったのだ。
 それは、独房に入れられた囚人が孤独に耐えられないかの様な、孤独と葛藤するかの様な聞くに耐えない、悲痛な叫びを繰り返すかの如く、毎日繰り返された。
 初めは外部に漏れないので無視されたが、それが次第に基地内の通信機能に様々な障害を起こすことになるが、軍はその障害がエンジェルに起因している事に気づいて、対処に動かざるを得なくなった。
 そしてそれはいよいよハワードの耳にも届く事になった。


 その報告書を睨んだままハワード中佐は苛立っいた、鳴り物入りで基地内整理を始めて漸く見通しが付いてきて、いよいよ天王山の"開かずの間"にいざ手を付け出すと、"圧力"が様々な方面から掛かってスムーズには進まなかったからだ。
「何故あんな無駄を簡単に排除させないんだ」
そしてエリアXの外でも別の問題が取り上げられる様になった。
"メン・イン・ブラック"
という言葉を耳にする様になったのも丁度その頃からだった。
 突然訪問を受け唐突に、
「それ以上関わるな、でなければ保障はない」
と言い放って立ち去る黒ずくめの三人組の男達をそう呼ぶようになった。
 妙に古臭い出で立ちは二十世紀初頭を思い起こさせ、彼らの乗る時代錯誤なフィフティーズ・キャデラックは、まるで新車の様に黒い艶を輝かせていた。
 彼らは常に、アンタッチャブルを暴こうとする者の前に現れる、そして相手に釘を指すのだ。
忠告された相手は、まるで杭を打ち込まれたドラキュラみたいに固まり、沈黙するのである。
その沈黙を守らぬ者は漏れなく、謎の死を遂げ新聞の片隅の一交通事故死亡者として無名で掲載され素性は消される。
そんな話が米国の僻地にある空軍基地周辺の街にまことしやかに語られた。
あくまで"噂"である。
 田舎の人々は失踪事件が基地周辺で発生すると、兎も角黒ずくめの三人組のせいにし、基地上空で夜な夜な起こる光の航空ショーに関心を示しながらも、それをあたかもタブーの如く口を閉ざすのだった。

 こんな物騒な噂をハワードが知ったのも、基地内の開かずの間に手を付け出して間もなくの事だった。最初は自分に降りかかる意味不明な圧力と重ねて気味が悪い話しだと感じていたがある時、エリアX上空での"夜の航空ショー"の事実を消しに回っている、別セクションの担当者から愚痴を聞いてから考えが変わった。
 彼らは極秘兵器の実験を悟られない様に目撃者をシラミ潰しに訪問し目撃事情を調査しているところだが、最近になって目撃者に会って要件を説明しただけで"絶対他言しない"と相手から返事して、妙にビクビクしていると言うのだ。
 先回りをしている連中も三人で同じ、聞いて回る話も似ていてどうも気味が悪いと言う、彼らにすれば手間が省けてこれ幸いな筈だが、事前にお膳立てされた後で通り一変のルート作業をしている気分にさせられ、やる気が失せるらしい。それで、自分達は居なくても仕事は回っている事実に、茶番だと愚痴るのだ。
 訪問先は別の機関から回されるリストに基づいているそうだが、まるでその情報を知って先回りされていると深読みしたくなると言う訴えに、ハワードは無駄な軍事予算の浪費の匂いを感じざるを得ない。
当然改善の余地ありと判断し命令したものの、その返事は、
「その様なセクションは存在しない」
という耳を疑うシロモノだった。
 納得がいかない彼は、大統領権限をかさに国防総省に直接意義を申し立てると、
「今の職を失うと、次の異動先はない」
という不可解な回答が返って来る、明らかにアンタッチャブルを促す警告としか取れないモノだった。
「一体、この基地で何がそうさせるんだ!」
憤りを隠せないハワードは、ここまで来て今更この圧力に屈する積りは無かった。
 とは言え、流石にのれんに腕押しの状況が続いて苛立つハワード、遂には睡眠不足に悩まされる様になって健康を損ねてしまった、元来健康には自信があった筈だったがとうとう仕事に支障が出るようになった。
 彼は、観念して検査を受ける事にした、そして以前お世話になった軍立病院へ検査を受けにワシントンへ向かうことになった。

つづく。

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